62・優しい体温 「しばらくはまだ安静にしてください。閣下の内臓はまだ 正常じゃありませんからね」 美しき女医は淡々とカルテに書き記していった。 閣下と呼ばれる青年外交官は先の言葉が気にかかる。 ・・・・・・一生分の勇気を振り絞って尋ねてみる。 「ドクターその・・・・・・・さっきの話なんですがその・・・・・・ドクター の自由な時間はある男性で・・・・・・万席だとかおっしゃっていま したよね。その・・・・・・そのぅ・・・・・・」 あまりに気の毒な表情をアッテンボローがしたので、ミキ・ マクレインは自分からはっきりと言った。 「私、閣下をお慕いしています。1人の男性として、閣下を思って います」 心臓の音が自分でもわかる。はじめての告白。 ミキはベッドの端に座った。 「あ・・・・・・と。その、これはその・・・・・・」 アッテンボローも、こうなると肚を決めて彼女に言った。あまりしどろ もどろではどうも格好が悪すぎる。こほんと咳払いをして。 「あの・・・・・・ミキ、とよんでも・・・・・・?」 「ええ。閣下のなさりたいように」 小さなミキの身体を勇気を出して抱き寄せて、アッテンボローは 言った。 「閣下はよしてくれないか。ミキ。・・・・・・そのぅ、もっと抱きしめ ても?」 「傷に障らない程度に。早く治ってほしいですもの」 温かで心地よい・・・・・・優しい体温。 「・・・・・・キスをしても?」 ここで彼女はくすっと笑った。 彼の腕の中で。 ほほを赤く染めた青年外交官は腕の中の佳人を見つめる。 「いちいち断らなくてもいいのよ。ダスティ・アッテンボロー。 私たちきっとお互いのことが好きなのよね。だから遠慮なんて しないで。あなただって遠慮されたくないでしょ。」 彼もそういわれて、あぁそうだよなと笑った。 快活な彼の笑顔。 裏腹におっかなびっくりのはじめてのキス。 そして、静かな、長いキス。 「・・・・・・ここが病室じゃなかったらなぁ」 そういったアッテンボローの言葉にまたも彼女は噴き出す。 あまりにころころと彼女が笑うのでアッテンボローはミキに笑い過ぎと 軽く叱った。 だっておかしなことばかり言うのだものと彼女は笑いが止まらないらしい。 ミキの額に接吻たままアッテンボローはぶつぶつ文句を言った。 そんな彼の様子がいとしくて、彼女は彼の髪をなでる。 「出会ったときには、好きだった。振り向いてもらう自信はなかったけれど 握手をしたときには恋してた。」 「私も」 「一緒にいたいと、ずっと思ってた」 「私も」 「これからもずっと、一緒に生きていきたい」 「me too」 「さっきから、君は『me too』ばかり」アッテンボローは口をとがらせた。 「だって、そうなんだもの」ミキはその唇にそっとキスをした。 あなたのいうこと、あなたの思うこと、なんでも大好きよ。 ダスティ・アッテンボロー。 「異議なんてないんだもの。何一つないほど好きよ。何か文句ある?」 黒い黒曜石の眸がまっすぐアッテンボローを見つめた。 「・・・・・・全然、文句ないよ。ミキ。」 しんしんと愛情が募ってきてアッテンボローは小さくて華奢なミキの 体をそっと抱きしめた。ミキは黙って愛する男の鼓動に耳を傾けて いた。 私をおいて一人でいかないでねと小さく彼女は囁いた。彼はその声を 心に大事にしまい彼女の形のよい頭を撫でる・・・・・・。 わかった。一人にしないからとアッテンボローはミキの額に唇をあてて 約束した・・・・・・。 ミキはグロスが彼の唇についてはいないかチェックして彼をベッドに 寝かせた。 「早くよくなってね。ダスティ。私行くわ。他の患者も待っている」 アッテンボローは愛しい重みを感じながらミキの体を起こして・・・・・・ 名残惜しげに手を離した。 「わかった。愛してる」 「me too。それと、患者はたくさんいるけれど、愛しているのは あなただけよ」 アッテンボローの腕に残る彼女の優しい、体温。 by りょう |