51・気の狂いそうな平凡な日



第一回目『アルカディア計画』はまだ結論は出ていないが

前向きに検討するとの答えが帝国からかえってきている。

建築段階でも帝国の技術者を受け入れ査察を帝国が行うことが

できるのであれば大きな問題はないであろうという前向きな

会談でまずは第一段階を踏み出した。



これなら上々の政治会談になったといえるだろう。


いちいち干渉されるのはこの際やむを得ない。

それでハイネセンの経済復興が少しでも進むのであれば

喜ばしいことだと一同は思っている。










そして花嫁の養母であるミキ・M・アッテンボローもビッテンフェルト

元帥とコーネリアとの婚儀が半年後ということでいったんハイネセン

ヘ帰ることにした。

オリビエ・ポプランに言わせると。


『付録に亭主がついて帰国するんだとさ』

らしい。



一事が万事小憎らしい男であるとアッテンボローは思う。



「閣下。寂しいですよ。閣下のいないフェザーンなんて自分にとっては

気の狂いそうな平凡な日の連続でしかありません。いやあ。寂しくなり

ます。うんうん」




・・・・・・嘘つきポプランめ。



「見え透いてるんだよ。お前」

「でしょう。分かりやすくいってるんです。さっさと帰ってください」


にんまりとわらう小悪魔が一人。









憎たらしいにもほどがあるとアッテンボローは歯がみする。



ミキはポプランとイレーネに自分達の結婚式にきてほしいと

頼んでいた。コーネリアの挙式を前に自分達の簡単な結婚式を

すましてしまおうというのがアッテンボロー夫妻の考えであった。

もちろんイレーネは大喜びで必ずいきますと美しい笑みで祝福

してくれた。




「お前さんはこないのか。ポプランさん」

きたくないならきてもらわなくていいんだ。

ミキさえいれば結婚式はできる。







「閣下。お忘れですか。小生は見目麗しい美女が平々凡々たる

野暮天と華燭の典をあげる光景を目にするのが痛ましいのです。

小生の美女が、またつまらん男にさらっていかれる糞面白くない

行事につきあうのはごめんです」













お前のミキじゃない。

おれだけのミキなんだって。

アッテンボローは釘を刺した。




「本当のことをいうとね」

イレーネはアッテンボローに耳打ちした。









ほうほう。そういうことか。

「お前さん。ユリアンたちに大見得きって以前別れたらしいな。

生き残った連中で先に死んでいったやつらの悪口を言い合おう

とか。そうだよな。たびたびハイネセンヘのこのこきたらかっこう

悪いことこのうえないもんな。いやあ大見得をきったもんだ。

お前さんにそっくりそのままおれのあだ名をくれてやるよ。伊達男さん」







ちっ。

イレーネのおしゃべり。

・・・・・・しかし古今東西、過去、現在、未来において女がおしゃべり

でない世はおそらくないであろう。これも女のかわいいところと

ポプランは思い。



そんなわけで素直になれない三十路の男二人にミキは言う。


「ポプランさんがこられないとうちの主人が寂しがって困ります。

是非いらしてください。ダスティは口は悪いですけれどあなたのことを

とっても信頼しているんですよ。」

ミキ・M・アッテンボローの笑顔は聖母のように神々しい。







こうなると。

いやともいえなくなってポプラン、降参。






さて。ハイネセンへもどったら忙しくなるぞ。

アッテンボローは咳払いをしてミキに視線を送った。

「公務だからといって無理をなさらないでね。ダスティ。」

愛妻は小さな顔を夫に向けて微笑んだ。






仕事だけじゃないよとアッテンボローは言う。













何せ最大の難関、歩く秩序・・・・・・いやミキのお父上に

御挨拶。



「あら。そういえばそうね。忘れてた。」

アッテンボロー夫人は自分のことはよく忘れる。

けれどそんないとけなさもアッテンボローには愛しく思える。









気の狂いそうな平凡な日なんてもの、アッテンボローには

皆無であった。




by りょう
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