48・僕はこの目で嘘をつく 話があるとアッテンボロー。 何と、普段と変わらない彼女。 いつも通りの日常。 いつもの光景。 彼の表情に・・・・・・彼女は何かを感じる。 「ごめん・・・・・・やっぱり、君とは付き合えない」 何故?と彼女は聞かない。 「君と出会ったときに本当に好きだと思った。今も君に惹かれる。 これも嘘じゃない」 こんなときまで彼女は表情ひとつ変えない。 「君は魅力のある女性だし一緒にいたいと思った。でもおれが選ぶべき 女性じゃないと思う。その・・・・・・結婚相手としておれは家庭を望んでいる んだ。自分が仕事に出ても安泰な家庭を築いてくれる女性を選ぶべき だったんだよな。・・・・・・今ごろこんなことを言って。卑怯だと言われても いい。・・・・・・なかったことにしよう」 そして・・・・・・。 「できれば、もう会わないようにしよう。何もなかったころに2人、戻ろう」 彼女は彼の眸を見据える。 翡翠色の眸。 嘘がつけない彼の眸。 「すまない」 「謝ることじゃないわよ」 ミキは小さく微笑んで髪を少しかき上げた。 艶のある黒い髪。 「狙撃されて・・・・・・」 彼は言った。 狙撃されてみて自分が政治的ターゲットになっていることを知って テロに敗北したくない意識が強くなったと。 こうなったら命がけで今の仕事をやり抜こうと思ったと。 自分たちが多くの僚友を失ってまで手にした自由・民主の世界までも テロが横行するような世界にしては断じてならないとアッテンボロー なりに考えて結論を出した。 「きちんとこの際、身を固めようと思う。君とはそういう関係になれないと 思うし君には自由に今後も医者として生きてほしいと思う・・・・・・。君は名医だ。 そして忙しすぎる。おれの伴侶には選べない。惹かれるけれどおれはつき あうなら結婚を考えたい。君とはそれは無理だと思う。今となっては何もかも 言い訳に過ぎないのだけれども。・・・・・・殴ってもいいよ」 彼女はやさしい笑みを見せた。ゆっくり小さく首を横に振った。 「今まで別れた女性に平手打ちでもされ続けてきたの?」 「・・・・・・いや、自分で自分を殴ってやりたいくらい情けない・・・・・・」 彼は彼女を見つめていった。 「今ならまだ君のことは忘れられる。その自信はある。だから今別れて おこう。関わりをやめよう。そう、全く何もなかったように。出会わなかった ときのように戻るんだ。君だって自由だしおれも自由になれる。出会わ なかったことに・・・・・・。卑怯だな。おれは。でも今ならまだ間に合う」 ボクハ、コノメデ、ウソヲツク。 「そんな悲しい顔しないで。そうよね。私たち、結婚できる間柄じゃない。 あなたには家庭が必要だわ。男は家族をもってこそ落ち着きがでるもの だもの。私はあなたに似合わない。だからこれ以上謝ったりしないで・・・・・・」 「今なら、他の女性を愛せる」 ボクハ、コノメデ、ウソヲツク。 「ええ。そう思うわ。あなたの傷ももう癒えるし退院も決まったことだし。 あなたがここを退院するときには私たちゼロに戻るのね」 「うん。それが一番じゃないかな・・・・・・」 ボクハ、コノメデ、ウソヲツク。 彼女は・・・・・・ミキは頷いて彼に最後のキスをする。 「・・・・・・楽しかったわ。ありがとう。あなたがいてくれて私・・・・・・ 嬉しかった。幸せだった。」 ミキは静かで・・・・・・。 なじられもすれば気が楽だったかもしれない。 けれど彼女は「ありがとう」といって美しく、優しい微笑みをアッテンボローに 向けるだけだった。 「さよなら。ドクター」 彼女が背を向けて部屋を出て・・・・・・アッテンボローは目を閉じた。 これでいい。 自分がテロのターゲットになっているのにミキまで巻き込むなんて できない。大事な彼女を巻き添えになどできない。 忘れられるはずはない。 今ならまだ彼女を忘れることができるだって? ダスティ・アッテンボロー? よくまぁそんな大嘘をつけたものだ。 ミキ・マクレインを忘れる? そんなことは不可能じゃないか! 今なら他の女性を愛せる? ・・・・・・彼女以外、目に映らないのに。 彼女以外愛せやしないのに。 そんなことはもうすでに見えているじゃないか。 結婚なんてできなくても彼女の姿を目で追って彼女のそばにいれ さえすれば。彼女がそばにいてくれさえすれば・・・・・・ 自分は幸せだったのじゃないか。 彼女さえいれば・・・・・・ だからこそ、彼女まで危険に巻き込みたくはない。 これがアッテンボローの嘘。 この数日キャゼルヌやポプランの話を聞き、自分で決めた別れ。 まさか、自分が彼女を遠ざけるなんて・・・・・・ 男って、泣けないものだな。 アッテンボローは窓に映る冬の最後の淡雪をみつめていた・・・・・・ by りょう |