45・永遠の愛
「・・・・・・いい香りがする。」
イレーネ・コーネフ嬢が船内にただようお菓子の香りを堪能した。
「なんだ。今日は何の日だっけ。おれ様の誕生日でもないしな。
なにかの記念日かだったっけ。」
「さっきミキ先生がキッチンを貸してくれって。きっとケーキを作って
らっしゃるのね。かぐわしい香り。」
ポプランは首をかしげた。
「あれえ。亭主の誕生日はいまごろだったっけかな・・・・・・・ま、この
オリビエ・ポプラン様が野郎の誕生日を忘れていたとしても罪には
ならん。こういうときはキッチンをのぞきにいくべしだな。」
えさに釣られたオリビエ君。
イレーネ・コーネフ嬢はクスクス笑って呟いた。
「ハッピーバースディ」
「あ、においに釣られてやってきたな」
アッテンボローは女房殿の隣で所在無しにブランデーをきこしめしていた。
「いい酒飲んでますねぇ。わけてくださいよ」
ポプランは口を尖らせた。
「いやだ。勿体無い」
カミュ・ジュビリーなんだからお前に飲ませる酒じゃない。
ええ。それは是非ご相伴にあずかりたい。
「おれと閣下の仲じゃないですか」
「気色悪いことをいうな。しかたない。恵んでやる。」
高級なブランデーである。フェザーンでならたやすく手にはいるが
ハイネセンでは滅多に出回らない。琥珀色の液体はクリスタルの
美しいボトルの中で揺れていた。
「さすがカミュ・ジュビリー。うまいっすね。ところでドクター・アッテンボロー。
今日は何の日ですか。まさか二人が初めて出会った日、なんていうのは
よしてくださいよ。恥ずかしくて背中が痒くなる」
ミキは、オーブンの火加減をみていった。
「私とダスティが出会ったのは宇宙歴802年。晴れた9月10日」
「ありゃ。じゃあなんのイベントですか。こんな高い酒をまさかケーキなんぞに
使ったんですか。」
とポプランさん。
彼女はコップにカミュ・ジュビリーを注いで一口飲んだ。
ミキは言った。
「親愛なる友人の記念すべき誕生日。命日ばかりじゃ辛気くさいじゃない。
ミスター・ポプラン、あなた司令官の誕生日も覚えてないのね。」
こいつは男の誕生日には関心が全くないんでねとアッテンボロー。
「相変わらず紅茶をいれて茶葉を蒸すタイミングが私にはうまく行かないよう
なんだけれど。うーん。ユリアンに聞いておけばよかったわね」
・・・・・・あぁ、とポプラン。
今日宇宙歴803年4月4日はヤン・ウェンリーの誕生日であったか。
「彼の誕生日がくると春がきたんだわって思うの。永遠の愛と友情を
込めて・・・・・・うまく焼けているといいんだけれど」
妻の言葉にアッテンボローはグラスをとって宙に向かって乾杯した。
「永遠の愛と、友情を込めて・・・・・・か。悪くない」
ひとが心にともした明かりは、消すことはできない。
「ハッピーバースディ、ヤン・ウェンリー。あなたが好きなカミュよ。」
出来上がったケーキを海鳥号のスタッフでわけて小さな宴会がこの
小さな空間で行われた。
by りょう
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