41・しせん 帝国元帥のフリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトとミキ・マクレインの養女・コーネリア・ フィッツジラルドの出会いにこの時期と並んで起きたことを追記しておく。 当時同盟政府政治代表・ウィリアム・タイラー首席は直々にドクター・ミキ・マクレインにあることを 申請していた。 国立中央自治大学客員教授であったタイラー首席は女医に医学部の客員教授を願い出ていた。 そして今後の医療をになう若者の育成を、彼女にたくそうとしていた。国立自治大学医学部教授。 現場主義であるミキ・マクレインがこの話を聞いたのが去年の夏の終わり。 さんざん悩み首席の熱意に負けて、人材育成に時間を費やそうと決めたのがその年の 終わりごろである。 ミキ・マクレインは「現役医師」と「教授」の二足のわらじで精励につぐ精励を日々忙しくこなしていた。 「わ、私は皆に武骨だがさつだ、おまけにそこつものと言われている。オレ、いや、私はあなたにも そのように野蛮に接しているであろうか。フロイライン・コーネリア?」 いいえとコーネリアはやさしく言う。 「あなたは軍人でいらっしゃいます。威厳があってよろしいかと存じます。私には優しくしてくださいます から野蛮だなどとは思いません。」 「・・・・・・姉上も私が軍人でなければ少しは事態が違っていただろうか。姉上が私をお嫌いなのは やはり軍人だからだろうな。」 コーネリアは黒色槍騎兵艦隊を率いて宙を翔ける彼女の保護者と同い年の元帥閣下の言葉に微笑む。 彼は自分がコ−ネリアの婿としてまだいまもミキに疎まれているのではとあやうんでいた。 「閣下。ミキ先生は閣下と同じ年なのですよ。強いて申し上げれば先生は閣下より10ヶ月ほど 年下です。姉上と呼ぶのはいささかお気の毒です。・・・・・・ですから、ミズ・マクレインと先生のことを 呼べば大変よろしいかと存じます。」 プラチナブロンドの健康美溢れる娘が丁寧な帝国語で銀河帝国元帥閣下に進言をする。 その微笑みは明るい性質のもので春のうららかな日差しを感じさせる。その笑顔が元帥閣下は いとおしいものに思える。聡明そうなすみれ色の眸やすこしだけあるそばかすも、この年少の 女性をひどく愛らしく見せる。・・・・・・とビッテンフェルトはついぞない恋心に戸惑いながらも コーネリアが自分を好きと思ってくれていることが、うれしい。ごく単純に。 だが元帥閣下はうーむとオレンジ色の燃え上がるような色合いの髪をかきむしっている。 「いずれにしても婚約も結婚も許してくれたのですからなんの問題もありません。閣下。ミキ先生 だって祝ってくださっています。閣下のひととなりを嫌う理由はありません。それは私も先生もです。 ご安心なさってください。先生はご結婚を喜んでくださっていますよ。」 「だが、なかなか面会もできない・・・・・・。もう一度婚儀を許してくださった礼を申し述べたいのに。」 「いたし方ありません。わが同盟では医師が不足しておりますから先生のような熟練した医者となれば なかなか私もお会いできませんの。お赦しいただきたいと思います・・・・・・。」 「も、もちろん。許すも許さないもミズ・マクレインはご立派だ。我々の婚儀をお許しいただいている ならばむやみに時間を取らせてもお気の毒であろう。コーネリアが謝ることはない。」 コーネリアは落ち着いて喫茶室で紅茶をいただく。彼女の夫となるかなり年長の普段はりりしい、 そして迷いや逡巡と縁のない男性が頭を痛めているのは気の毒であることだと思う。 けれどこの縁組だから普通どおりに進まないであろうことはコーネリアは知っていた。 困難な結婚といわれることも知っていた。 けれどフリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトという稀有な素直な魂にひきつけられたのも事実で そして自分の人生を彼とともに異国で過ごすことも、コーネリアは不思議に恐くなかった。 嫌悪感もなかった。 宮中の仕組みを知らぬから夫となるこの人物の恥にならぬよう素直に郷に従おうとはらをくくると 自分は大丈夫、と自分を励ます余裕すら出てきた。 「いろいろと気を使わせてすまない。コーネリア。俺は職業軍人であり皇帝に忠誠を尽くしている 臣下である。それを捨てぬことはできぬ。あなたには故郷も離れてもらわねばならぬし ミズ・マクレインともそう頻繁には会えない。無論あなたさえ望めばいつでもハイネセンへ俺が 船を出そう。できる限りあなたをお守りする。必ずあなたを幸せにしたいと思う。」 コーネリアははいと頷いた。 「覚悟はしています。帝国元帥閣下とお付き合いをするということがどういうことであるか。 そういう方を慕ったことがどういうことか。宮中のしきたりはすぐに教えをこうて身につけます。 あなたの恥とならぬよう。ですから何もご心配にならないで見守っていただきとう存じます。」 「心得た。あなたをお守り申し上げよう。・・・・・・コーネリア。あなたが俺の恥になるとはよもや 思いもしないしあなたはそのまま身、一つで・・・・・・俺のところへきてほしい。」 オレンジのように燃え上がる色の髪の元帥は彼女の白い手を思い切って握った。 コーネリアは少しその手の大きさに驚いたけれどそのあたたかさは快いものであった。 彼女は覚悟している。 自分の運命の数奇さも。戦争孤児になった自分が同盟軍軍人家庭に扶養されて いた自分が帝国軍元帥と恋をして嫁することになるという数奇なさだめ。 彼が多くの人々を殺してきた軍人であるとしっている。それでもこの人と生きていこうと彼女は決めていた。 プラチナブロンドの少女ともいえる女性は、背筋をしゃんと伸ばして、臆することなく未来の夫に 向かって言った。 「必ず幸せにしてくださいましね。閣下。すべて閣下にお任せいたします。」 幸せというものは誰からかもたらされるものでないことを聡明なるコーネリアは知っていた。 けれどビッテンフェルトという男は「頼りにする」と彼がとてもご機嫌になるの。彼は人から頼られること 特に愛する女性から頼りにされれば元気が出る。彼女はもうそんなことは十分わかっていた。 そんな愛らしさもじつは彼女は彼の得がたい資質だと思っている。 「約束しよう。必ずコーネリアを幸せにしよう。安心して俺とフェザーンへきてくれ。」 コーネリアは素直に頷く。「はい。閣下。」 理屈ではなく彼女の心が決まってしまったのだ。 幼い恋心の延長線上の感情かも知れない。 今の彼女が想像する以上の未来が銀河帝国で待っていることも彼女は覚悟している。 そのうえで彼女は素直に頷いた。 その視線は彼女の婚約者に注がれてさらに遠くを見つめている。 コーネリアは愚かな女性ではない。むしろとてもよいお嬢さんを元帥は見つけられましたわね。 と、のちに摂政皇后ヒルデガルドがビッテンフェルト元帥に洩らした感想である。 コーネリアと、ビッテンフェルトとの華燭の典は春に行われる予定である。 はっきりと青年外交官に好意以上の感情を持っていながらなんのアクションも起こさない彼女の養親の 女医をコーネリアはむしろ気づかう。 彼女の視線は遠く未来を見つめている。 同盟と銀河帝国をつなぐ一本の細い糸となる彼女自身を自覚して。 まっすぐな眸。 まっすぐな、心。 by りょう ■小説目次■ |