40・あやかし



なぜこの男はしょっちゅう家にくるのだろう。

ミキ・マクレインは思った。

そのまんまをワルター・フォン・シェーンコップにいうと嬉しい癖にと

抜かしてくるので堪らない。




彼の恋のお相手はヴァレリー・リン・フィッツシモンズ中尉が亡くなって

・・・・・・すぐ後にまた違う佳人を伴っていたはずなのに長続きはして

いない様子である。考えても見ればワルター・フォン・シェーンコップの

情人(ミストレス)が半年も続くなど女性としてミキは素直に彼女を

尊敬した。




ヴァレリーがいきていればまだ二人は恋人同士だったであろうか。

彼女は適度の自由さがあり適度の自尊心があった素敵な女性で

あった。ほんの数回あっただけで任地が変わって彼女の訃報を後で

聞いた。

似合いだったとミキは思う・・・・・・。



数年たってもこの男をつなぎ止める女性は現れない。

当人曰く女を捨てるのではなく女を失望させる前に別れるんだと

あながち冗談でもない口調で言ったことがあった。Jは生前

「シェーンコップは恒常的な関係を女性と築くことをある意味面倒で

ある意味自分の負債を知っているから次々と恋人を変えるんだろう」

といっていた。








そんなことを言ったJもなくなって。

シェーンコップはイゼルローン要塞陥落のおりの話をしにきたようだ。










「お前さんの友達のヤン・ウェンリーという男はたいした男だな」

あの薔薇の騎士連隊を巧に使いこなして帝国軍の難攻不落の

要塞をおとしたのであるからなるほどヤンは確かにたいした男で

あろうと彼女は思った。これは軍の機密なので後になって聞いた話

である。




「あなたたちに帝国軍の制服を着せてあちらの仕官に成り済ます

ように指示するなんて考えたものね。ヤンがどうして薔薇の騎士連隊

を使いたがったのか不思議だったけれどあなたたちはもとは帝国

の血が流れているのだから自然と帝国に紛れ込める。いい発想だと

思うわ。制服を着せればあなたも帝国軍大佐には見えなくもない

わよね」




「ああ、お前さんでも白衣を着せれば医者に見えないこともないからな」

そう混ぜっ返す男にミキは呆れる。


医者なんだってばとミキは横柄な友人に言おうかとおもったがやめた。



「でもいくらなんでもヤンのような人間に帝国の軍服を着せたところで

軍人には絶対見えないと思うな。うちの父もだけど。やっぱりあなたたち

だからできたことよね。姿だけでなく所作、つまり振る舞い方で分るもの。

そういうものって」




その通りと、シェーンコップは相変わらずミキの家の酒は自由に飲んで

いいと思っているのか次々グラスをあけていく。



迷惑な友達である。

切れるものならとっとと縁を切りたいなと思うときもあった。

でもそうさせないのは皮肉にもJのせいでもあった。

Jとシェーンコップは波長が合うらしく自然と思い出話をこの男とは

ミキは共有できた。










「おれにはどこか貴族的な優雅さが抜け切らんらしい。何をやっても

品性が微塵も衰えない。典雅な男なんだ。これがおれの欠点だ」

「勝手に言ってなさい。ワルター・フォン・シェーンコップ」

ミキはそのときは笑ったものだった。

















荷造りを終えてミキはひとり自分の書斎で考え事をしていた。

準備はできた。

手はずは整っている。



幸い彼女の恋人は気がついていない。

その方が彼女にとっては計画の実行にでやすかった。



彼に悟られてはいけない。



物言う顔と言うほどでもないのだがアッテンボローは顔に感情が出やすく

なっているときく。

なるほどそうかも知れないとミキは思う。




さて出発の日まで、あとわずか。


失敗は許されないのだ。

この役目は誰にも譲れない。




by りょう

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