39・ダブルベッド ミキの家の方が広いのと診療所がとなりにあるということで アッテンボローが官舎を引き上げて少ない荷物で彼女の家に 同居することになった。味も素っ気もない元軍人用のしかも 独身のフラットよりも彼女の家の方が温かみがあって心地 よかったのでキャゼルヌの 「結婚して2人でこっちの家族用のフラットにこしてくればよいものを」 というお誘いをアッテンボローは丁重に断った。そもそもミキ の家自体キャゼルヌ家に近いのだし近隣のつきあいはできる。 あまり問題はないなと男二人は頷いた。 ミキにはプロポーズしていない。 本当は彼も結婚を考えているし結婚するなら彼女しか いないわけだけれども・・・・・・。 とうの彼女は今アッテンボローの荷物をほどいて整理 整頓して一週間分の料理の下ごしらえをし洗濯物を 干して・・・・・・と大忙しであった。 アッテンボローが手伝うと言っても彼女は余りそれをさせて くれない。 彼女は細々と動くのも好きなのだ。さすがに以前のように 危ないまねはしなくなった。アッテンボローはミキのことは しかったり気分を害することがほとんどないけれど、彼女が わずかでも危険にさらされるとなると話は別で、彼女をしかる。 普通の男にしかられても平気なミキでもアッテンボローに しかられてしまうとシュンとなってしまう。 そんなしおらしい彼女をシェーンコップが見ればなんと 思うであろうか。 鈴を鳴らすような声でミキは言う。 「どうせ仕事が入ったらあなたにも家事はお願いするんだもの。 私、結構こういうこと、好きなの」 普段は医者として果敢に働いている彼女もアッテンボローの 前ではもうポーズを作らなくなってきている。 大人ぶることもないし、彼自身そう思えるほど彼女は彼と一緒 に暮らすことが楽しいらしい。 今はまだ早いかも知れない。 焦らないで、ゆっくり、これから時を刻んでいけばいい。 2人で。 ずっと一緒にいることを約束したのだから。 新しく2人で眠るためのダブルベッドにも清潔な新しい シーツがかけられて、なんとなく新婚家庭のようでもある。 じゃあ結婚はなんなんだろうと彼はときに考える。 キャゼルヌに聞かれれば馬鹿といわれることだろう。 2人は現在恋人同士で結婚すれば夫婦となり、家族となる。 ・・・・・・家族になるにはまだ時間がかかるよなぁ。 セックスだけで、同棲するだけで・・・・・・そして、愛しているだけ では結婚はできないのだろうなとも今まで結婚したことがない 彼は考えてみた。焦っても、これはどうしようもない。 コーネリアとビッテンフェルトの婚儀が控えているし自分は 何者かにねらわれているかも知れない。 ポプランは何か画策しているようだが何も教えてはくれない。 ひと段落ついてまだそれでも彼女と今後もずっと暮らしたい ならやはり結婚を申し込んでみようと思う。 でもどう考えてもずっと彼女の側で、彼女を見つめていたい 気持ちは変わらないと思う。 少なくとも生命が狙われているという疑いが完全に払拭されたら 結婚を申し込んでみよう。 いや、たとえ狙われ続ける人生を今後送るとしても彼女と 共に生きたい。 時期を見てやっぱりプロポーズしよう。 アッテンボローはそう考えていた。 家事を片づけて部屋のベッドにごろんと転がったミキ。 「ねぇ、ダスティ、ベッドがこんなに大きいと1人だったら、 寂しいでしょうね」 ずっと隣で寝てくれるよねと大きな黒曜石の眸に見つめ られて。 そんなかわいいことを言うから、彼女にキスしたくなる青年 外交官であった。 by りょう |