38・本能に従え




女医は自分の部屋のベッドの上で考える。

告白を。









考えてみれば、彼女は自分で告白したことがない。

というのは、何も彼女が愛の女神に寵愛されていたわけではない。


彼女が生を受けて物心がついたときには彼女の伴侶はとなりに

いた。



ジョン。



幼いときからこの兄のような存在の彼の花嫁になるのが彼女の夢

だったしその夢は20歳のバースディにJからのプロポーズで叶った。



そして彼を愛し続けて彼を失い・・・・・・気がつけば今、である。




美人で気性も明るい彼女を好きになった男性からの交際や結婚

の申し込みはあった。

しかし彼女はそれどころではなかったので(仕事が忙しかった)

丁重に断ってきた。







気がついたら、35歳。

よくシェーンコップにからかわれたがからかわれるだけ自分が恋愛に

うといことを思い知らされるわけである。



誠実に、と父から言われた。

友人のドクター・スペンスもそのようなことを言っていた。






母親はあの真面目な父親を口説き落としたらしい。

撃墜王は男女関係も撃墜王なのであろうかと、彼女は考えた。



そう思うと母親とはなしをするのがいいのかとも思える。



思えるが。







ダスティ・アッテンボローは尊敬できる人物だとミキは思っている。



父から聞いた話ではヤンが殺された後冷静に彼は事後処理をして

いったという。







そのような感傷だけで生きず前向きさに少し・・・・・・惹かれた。

ミキもその場にいれば、同じことをしただろうと考える。



嘆くべきは妻のフレデリカであり、養子のユリアンである。






悲しみに暮れるのは簡単だが、いつでもできる。

しかし、組織の再建はときを選ぶ。








ダスティ・アッテンボローはときを間違えなかった賢明な人物であると彼女は

思う。




彼は平和は意思だと言った。


青臭かろうが、彼女はその言葉と彼そのものに急速に惹かれた。

人間の愚かさも聡明さも彼は信じているし冷静にあの眸で見据え

ている。



努力も知っている。



意思を尊重するということは彼自身何かを努力している証であるだろうし、

ミキが知っている以上彼は怠惰ではなかったし無関心でもなかった。



政治を常に監視し、行動している。


口先だけの平和主義者ではない。

厳しい戦いをくぐり抜けそして今でも戦いは続く。



これは尊敬に値する。









そうなると、ワン・ナイトラブ・アフェアではすまされないような気持ちに

なった。


彼女の思考はカルーセル(回転木馬)のように、ぐるぐるとめぐった。



さて、どう言おうか。

それに考えてみれば自分が思い込んでいるだけで彼の心の中では

自分のことなど眼中にはないのかも知れない。



よき友人と思ってくれているだけかも知れない。



今更、悩む。




「好きなら、好きというしかないわよね」









彼の髪が好き。

彼の香りが好き。

彼の眸の色が好き。

彼のそばかすも好き。

彼の心が好き。

彼の思うこと、支持すること、責任を負う姿勢も好き。



自分があのひとに釣り合うのか。

そうは思えないようにも思う。



ミキは自分が彼より2つ年が上であることもそうだし以前結婚していた

こともキャリアガールであることもこの際不利に感じる。

だんだん彼と普通にはなすのが苦痛になるくらい、ときめきを感じる。

純粋な、愛情。







当たって砕けろ、ミキ。

コーネリアの婚儀が済んだら、と考えていたが失うことを怖れて一生彼

に告白しないなど彼女の主義じゃない。

生きているからこそ恋ができる。

失う前に本心に従おう。






本能に従おう。


彼女はため息をついて、ベッドで目を閉じて眠った。


by りょう

■小説目次■