32・宝探し やだねぇ、と護衛役の撃墜王殿はつぶやく。 「なんというかねえ・・・・・・いい大人が始終にやにやして。 特上の女性をものにすると人間こうまで変わるのでしょうか ねぇ。しまりが無いというのか・・・・・・。仕事をしている男の 顔じゃないですよ。あれは」 アレックス・キャゼルヌ秘書官は書類の山を前にしてオリビエ・ ポプランの御託もそこそこに仕事に集中している。彼の場合は 優秀な事務能力を誇るので仕事を片手に世間話くらいはお茶の 子さいさいであった。 「そういうな。お前さんだって美しいレディと一緒のときにはゆるんだ ご面相をしている。アッテンボローの場合はイゼルローン要塞に赴任 する以前に交際した女性が僅かにいるだけで・・・・・・まぁ、今の恋愛は やっこさんにとっては多分人生最大級のロマンスだろう。結婚もせず に一緒に暮らしだして一週間。そりゃぁ、天国だろうさ。そのうちどちらかが イニシアチブをとれば平々凡々な生活が始まるだろう。楽しめる間は 楽しませてやれ」 「それって、秘書官殿のご経験ですか。現実味を帯びています。」 「まあな。結婚生活はそこそこ長いからな。」キャゼルヌは手を休める ことなどなく・・・・・・それでもあの二人、ようやくなんとか収まりそうだと 引き合わせた手前内心ではよしよしと思っている。 今、アッテンボローの護衛を勤めているのはオリビエ・ポプランの 相棒のイレーネ・コーネフ嬢。 ポプランはこの3日ほど寝ずに護衛をしてきたので交代したのだ。 彼女で大丈夫なのかとひそかにキャゼルヌは心配したがポプラン いわく・・・・・・。 「イレーネは誰に似たのか稀に見るスィーパーですよ。コーネフの 一族の中ではもっとも悪運も強いしあれで腕もいいんです。みっちり 仕込んでますからね。では小生は独り寝と参りましょう。興がない ことですが仕方ありません。お休みなさい」 といってのけて控室でごろりと3時間の睡眠をとった。 ポプランは執務室にいる2人と常にコンタクトが取れる位置にいる。 短い睡眠のあとまた撃墜王殿は秘書のキャゼルヌにいわゆる、 愚痴のようなものをこぼしていた。 悪意のない、愚痴である。 「まぁ、閣下にはこの世の春でしょうねぇ。ヤン・ウェンリーと関わると 美人がもれなくついてくるって案配でしょうか。たいした努力もしないで あんな美人と暮らしちゃうなんて。ま、仲が悪いよりは仲がよい方が 見ている側としては安心はします。」 そうそう、と勝手なことを言っているポプランの言うことに頷く キャゼルヌ。 「それにどう見たってあのひとはレディ・マクレインを片手に他の女と 恋をするなんて甲斐性はなさそうだし・・・・・・まあイニシアチブをとるのは 女医の方でしょうね。あのかわいいお尻に敷かれたいって顔に 書いてありますもん」 やかましいことを言っている奴がいるなあと、執務室からアッテンボロー が口を挟んだ。 レディ・イレーネは確かに護衛役にはぴったりである。 アッテンボローにたいして狙撃を防御する立ち位置に常に彼女は 移動する。 「これ、サインしましたからね。あとどの書類を私は熟読して サインするんですか。秘書官殿」 アッテンボローがおどけていった。確かにこの世の春のご様子で 機嫌はいい。 「次はこのフォルダだ。よろしくな」 「あなた達はどちらが上司かわかりませんね」ポプランは二人の やりとりを見て呟いた。 優秀な秘書がいるからアッテンボローは楽ができるんだと キャゼルヌは顔も上げずに言う。 「全く反論できる材料がないな。」とアッテンボローは頭をかくしかない。 ところで、とポプランがキャゼルヌに切り出した。 結局、一月ほど身辺警護をしているが狙撃されて以来は大きな 動きはないと。 つまりアッテンボローの命をねらっているものの姿が今現時点で 確認できなかったと撃墜王殿は言った。 こうなると・・・・・・ 「宝探しを仕掛けましょうよ。リンツは何を調べてんだろうな。 あっちが動かないならこっちで陰謀組織を洗い出すんです。 わくわくしません?」 宝探しって。 「あのなぁ・・・・・・お前、面白がってるだろ。おれが命を狙われ てるの。」 とアッテンボロー。 もちろん。とポプランは自信満々に言った。 仕事は楽しんでする主義なんでねと。 「実のところを言うと思いまするに残念ながらダスティ・アッテンボロー 誅殺説はなさそうなんですよね。一ヶ月ほど閣下を護衛しましたが 警備が厳重になった途端、なりをひそめてるでしょう。大きな組織では ないと思うんです。組織力があれば警備があつかろうと何らかのパフォ ーマンスを見せますからね。もしくはこれは今のうちから手を打たないと いけませんがね・・・・・・」 なんだ?と、アッテンボローとキャゼルヌ。 「ターゲットは、閣下じゃないかも知れません。あなたはただの、 そう・・・・・・フェイクで本当のターゲットは別にいるかも知れません。 そうだとしたら『宝探し』、急いだほうがいいのではありませんかね」 この宝探しは、吉と出るか凶と出るのか。 「まあ小生の腕を信じてくださいよ。最近はいみじくも地に足を付けて 戦うのも慣れましてね」 オリビエ・ポプランの宝探し。 撃墜王殿は軽くイレーネ嬢にウィンクした。 彼女はにっこりと微笑んだ。 by りょう |