31・あきらめましょう




「私もフェザーンに行くの」



アッテンボローのかわいい恋人が言い出したのは突然である。

実はかわいらしいのは顔立ちだけで中身はしたたかな女性である。



聞けば女医はもう前から病院の準備も済ませフェザーン行きを

きめていたという。

反対してたらどうするつもりだったのかをアッテンボローが聞くと

彼女は正論らしいことを言った。



つまりこうである。










「コーネリアが嫁ぐことも考えてビッテンフェルト元帥に私が今回

帝国首都星フェザーンヘ赴いて皇妃と国務尚書のミッターマイヤー

元帥に面会を取り次いでいただいているの。だって私が法律上コー

ネリアの母親なのだから足を運ぶのは当然でしょう。」




まあ、正論である。あまり反論できる余地はない。

アッテンボローは口は達者だがミキに笑顔で優しく言われるともう

なんでも赦してしまいそうになる。この世の春。




アッテンボローは反対できずてきぱきと荷造りをはじめた彼女を

見ている。

それにしたって黙っておくことはなかっただろうにといいたくも

なったがいちいちそれくらいで目くじらを立てても仕方がない。まだ

結婚していない。自分は亭主ではない。恋人だからあまりうるさい

ことを今から言いたくない。



ただ、やっぱりきまっていることだったら仕方がないけれども一言

言ってほしかったなあとアッテンボロー。







「・・・・・・今回はタイラー首席もいっしょなんだ。公務であるし・・・・・・

日程を延期するとか考えてくれないか・・・・・・な。」


ミキはあっさり「しないわよ」という。イニシアチブを完全に握っている。

「どうして・・・・・・かな。」一応アッテンボローは聞いてみる。



「どうしてじゃないわ。私の方だってビッテンフェルト元帥や皇妃ヒルデ

ガルドやミッターマイヤー元帥との約束もあるのですもの。あなたと航路は

いっしょでもこちらも遊びに行くわけじゃないのですからね。被保護者を

見ず知らずの土地に嫁に出すのですもの。たまたま時期が重なった

だけでこちらも以前から計画していたことなんです。今回は何もあなたに

ついていくと言っているわけではないのよ。ダスティ・アッテンボロー。

日程は変えるつもりはないの。ごめんなさいね。」




やれやれ。









アッテンボローはこの女医が大好きだしできればいつまでも一緒に

いたいと思っている。


けれどもたいていの女性がそうであるようにミキ・マクレインも譲ら

ないところは全く譲らない女性であった。物言いや声は優しいけれど。



きっと2人があわよくば結婚したとしても尻に敷かれるのは自分なので

あろうとアッテンボローは愉快な未来図をかいま見た気持ちになった。




ミキのかわいいお尻に敷かれることなど覚悟の上であった。

彼女は頭がいいしおおよそ間違ったことはしない。アッテンボローは

惚れた弱みも手伝って彼女のいいなりになっていた。

けれど・・・・・・。









実はタイラー首席暗殺のXデーがフェザーン出立の日ではないかと

ポプランは言っていた。

だからミキにはその場にいてほしくないとアッテンボローは思う。

銃撃戦にでもなったら、考えるだにぞっとする。




でも彼女の方がこと戦闘において運も才能もアッテンボローよりも秀で

ている事実。それを言われればそうですねとしか言い様がないアッテン

ボローである。身を守るすべはミキの方が長けているのだ。彼女のポテン

シャルは以前見たことがある。自分より危急の時の対応が秀でているであろう。

そうは思うけれどもかわいいミキを危ない目には遭わせたくないのが男の

矜恃でもある。




危ないことが好きなんだから。

全くミキ・マクレインという女は。


こういう女性を愛した自分。






あきらめましょう。


開き直ればなんとかなるだろう。ポプランもいるしリンツもいる。十分

警備に怠りはないとしんじている。


自分だって元は軍人だ。多少は対処できないこともなかろう。



多分・・・・・・。













などとアッテンボローも素早く自分の荷物を作り出した。

何せまだ結婚していない。あれこれと指図するいわれはアッテンボロー

にはまだない。早く求婚したいなあと思う青年外交官閣下であった。




by りょう
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