23・相容れないモノ 「あー。つまらんつまらん。こんな星にいるといつまでも つまらんことになる。宇宙へ帰るぞ。イレーネ。帰り支度 しようぜ」 17歳の聡明で美しい少女であるイレーネ・コーネフはくすっ と思わせぶりに笑って撃墜王をいなしながら荷造りを始めた。 ガキのわりに大人びてるんだよな。こいつとポプランは内心 で毒づいた。 「あの美しいミキ・マクレインは何の迷いもなく凡庸なアッテン ボロー閣下が提出した婚姻届にとっととサインしてしまった。 美女が平凡な男と結婚していくことはなんともおれには堪え難い。 結婚式に招待されたが何が悲しくて美しい女がおれ以外の男 のものになっていく様を見なくちゃならんのだ。阿呆らしい。そう 思わんか。イレーネ」 彼女は兄のイワンに似ているのか口数が少ない。そして辛らつ さも兄譲りのようである。コーネフ一族のDNAなのであろうか。 荷物を手際よくつめながら彼女はいう。 「あなたは確かに洗練されて男っぷりは悪くないけれどアッテン ボロー閣下は凡庸でもなく紳士だったわ。ドクター・ミキ・マクレ インは「伴侶」を求めてらっしゃったの。ひと夜のジゴロを探して いたのではないわ。あのお二人はお似合いよ。それに」 それに・・・・・・ 「アッテンボロー閣下にお礼ができて良かったわね。オリビエ」 お礼。 「嫌なやつだなぁ。お前。誰だそんなつまらんことを言ったのは。 ユリアンか。それともボリス・コーネフか」 ポプランは急所を突かれたようにいやな顔をした。 「ニュースソースを明かさない。この仕事の掟じゃない。何寝ぼ けたことをいってるの。しっかりしてよ。ポプランさん」 彼女はさっさと荷物を作っている。 お礼。 それはヤン・ウェンリーが暗殺された時・・・・・・・。 何もせず・・・・・・何もできずにただ酒と感傷に浸っていたポプ ランを叱りつけて奮い立たせてくれたアッテンボロー。 そしてこの時勢になっても未だに民主主義のために政治と近い 位置に身をおいて働いているアッテンボロー。 ポプランは宙(そら)こそ似合う男であり、彼の自由を責めなか ったアッテンボロー。 ポプランは本当はこれでもアッテンボローには感謝していた。 時代と決別するには自分は一度仲間から離れないと生きていけない。 仲間を失って傷ついた自分。 ユリアンやフレデリカがまだまだ苦難と立ち向かうのにフェザーンで 別れを決めた自分。 アッテンボローは元気でなと笑って見送ってくれた。 自分を解放してくれた。 自由にしてくれた。 傷ついているのは自分だけではないのに、それをわかって笑って 手を振ってくれたダスティ・アッテンボロー・・・・・・。 ポプランは一生忘れない。 その優しさや、寛容さを。 たった二歳上の兄のような、不器用なあの人。 「だがな。イレーネ。つりが出るほどおれは今回仕事をした からもう義理は果たしたんだぞ。生命を守っただけじゃない。 美人とも縁結びをしてやった。」 そうはいってもポプランが実はアッテンボローを尊敬している ことをレディ・イレーネが見過ごすはずもなく。 はいはいとテキパキと荷造りを終えてイレーネ・コーネフは 薄化粧を始めた。 ・・・・・・。 「ところでイレーネさん。前から気になっていたんだが・・・・・・。 お前はおれという男前がいてもなんとも思わんのか」 妙齢の女性が男の前で平気に化粧をするというのは・・・・・・ 男としてミナされているのか。 男としてミナされていないのか。 そのどちらしかない。 彼女はしゃんと背筋をのばしていった。 「オリビエ・ポプランは一人の女で満足する男じゃない。 ゆえに関わらないことがベストだと兄から生前さんざん 聞かされていたわ。あなたを好きになると苦労をするって。 おじさまもみてくれややさしさにだまされるなって。オリビエ とは仕事だけの関係にしろって言いつけられてるし・・・・・・ 私もジゴロよりどちらかといえばパートナーが欲しいかな。 同じロマンスをするなら、ね。」 悔しいくらい綺麗な笑顔。 つまり平気でポプランの前で化粧をするということは ポプランを男として見ていないということのようだ。 やられた。 「さあ。帰るならさっさと帰りましょう。オリビエ。私達には やることは山ほどあるのよ。ぐずぐずしないで」 イレーネ・コーネフとオリビエ・ポプラン。 相容れないモノのようにみえるがこれで似合いとも言えなくも ないかも知れない.・・・・・・・かな。どうもまだまだ先は見えないし 先があるのかもわからない相容れないモノ同士である。 by りょう ■小説目次■ |