17・朝焼け
6月22日。
私はそのとき 惑星シャンプールにいた。
毎日毎日各地で起こる反乱でけが人や死人が絶えない。アグネスは退役後も私の片腕として医療行為を手伝って
くれていた。
ジェシカ・・・。
もしもハイネセンに いさえすれば、あの熾烈な魂を持つ親友を亡くさずにすんだだろうか。
美しく強く澄んだ瞳の・・・
ジェシカ。
止めて聞くようなひとではなかった。 あのひとは、そういう女性じゃない。
婚約者を失ってから、議員に立候補したときも、当選したときも私は彼女の身を案じた。
トリューニヒトの政治力が私には忌まわしく思えたから。
ジェシカの命だっていつ脅かされるかわからない。ジャン・ロベールをなくしたあなたは合同慰霊祭の席で
トリューニヒトを弾劾した。
「あなたは今どこにいます」
宇宙のどこにもジェシカの愛したジャン・ロベールはいない。
ハイネセンにいるはずの私は、
宇宙歴796年勃発したクーデターのために惑星シャンプールへと医療スタッフとして赴いていた。
決定的に民間の医者が少ない。 物資も軍に最優先におくられるために何もない状態でけが人を救わねば
ならない。消毒液もない。汚された河川から水を汲み煮沸して数少ない医療器具で人々の手当てを
していたころ。
私の目の前で何人の人々が命を失っただろう。
そんな感慨にふけることも許されない毎日。 私がしてきたことは怪我人の手当てと緊急手術。
ライターでメスをあぶり手術しなければ助からない子供もいた。助かればいい。
でも助からない命も、たくさんあった。
シャンプールの次はパルメレンドか、カッファーかと アグネスに語っていたとき。
4月13日。
自由惑星同盟・首都星ハイネセンにて軍事クーデターが起こった。軍が二分したということ・・・・・・?
よくわからない。
ひとつがこの救国軍事会議という度し難いもので、 もうひとつがヤンが司令官として赴任しているイゼルローン
要塞駐留第13艦隊・・・・・・。
父がいる、ヤン艦隊。
どこまでひとの命を弄ぶ?
どれだけの涙と血を権力者はほしがる?
実際に身を切られていくのは民間人ではないか。軍は民間人を守るための存在意義を忘れてしまっているのか。
ここには、止血するための包帯さえも足りないというのに。シーツを洗い消毒して止血帯にする。
それがやっと。
ひとつの生命を護ることがどれほど難しいのか指導者は心して学ぶべきだと思う。
殺してしまうことはたやすい。悲しいけれどこれは真実。
私にはひとつの命を護るだけで精一杯だった。
そして6月22日。 燃える朝焼けを見送り私は慄然とする。
『スタジアムの虐殺』 2万もの人々の命を奪ったのは、なに・・・・・・。
私の親友を殺したのはなに・・・・・・。
あなたの遺体と私は対面した。エンバーミングを施しても・・・
あなたの面影はなく、あの美しかった金の髪は泥と血にまみれ。
あの美しい微笑をもう二度と見ることはできない。
ジェシカ、あなたは人間らしかった。
怒るべきときに怒らなければ 人間の尊厳は失われる。立ち上がるべきときをあなたは知っていた。
死ぬ覚悟があれば、何をしても言いというのか・・・。
あなたは最後まで、人間だった。
孤高な、誰も真似などできない孤独なたましいを胸に秘めた人。
けれども、あなたが、いなくて、 私は・・・・・・
私は時折悲鳴を上げて、朝を迎える。
血のような朝焼けを私は忘れない。
あなたを失った日の、あの狂ったような朝焼けを。
by りょう
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