6・海鳥



『海鳥号』とはイレーネの船である。伯父であるボリス・

コーネフが見立てて買い取り今もその割賦をイレーネは

返済している。兄が亡くなって様々なことがありフェザーン

に渡ってから。

イレーネ・コーネフは自由独立商人に憧れ伯父とともに

仕事をしてきた。

そんな立派なイレーネとなぜか仕事をする羽目になった

のがオリビエ・ポプランであった。



ポプラン家とコーネフ家の因縁が怖い。










アッテンボロー夫妻はその船の客人となった。

「ボリス・コーネフからまだねんねのイレーネを補佐して

やってくれと頼まれた。おれはこの船にのって商売の

仕方をこいつに教えてやっているのさ」

とポプランは言うが実際は商魂逞しいフェザーン商人の中で

腕を振るっているのはイレーネ・コーネフの方であり実際は

イレーネが商売をして用心棒をポプランが引き受けている

ようだとアッテンボローは彼の新妻に言った。







「この道中の間になんか面白いことでも起こってくれん

かなあ。宇宙海賊と遭遇するとか」


物騒な男だとアッテンボローはポプランに言った。



「戦時中でもあるまいし。今の世の中、帝国の巡航船が定期

的にこの宙域をパトロールして回っている。宇宙海賊に遭遇

したければ・・・・・・そうだなあ。まずお前さんが宇宙海賊になれ

ばよかったんだ。」

てっきりそうなっていると思っていたとアッテンボローは

半ばまじめにポプランに言った。




そんなこと気にすることもなくポプランは話を続けた。



「昔。軍人時代にね。コーネフやヤン・ウェンリー、ユリアン、

ヤン夫人、それとリンツとイゼルローンからハイネセンまで

旅したことがあったがあれはひどい航海だった。行きも帰りも

愉快な旅路とは言えなかった。ああいうのは後味がよくない。

・・・・・・その点ではこの船は行路を間違えるなんてことは絶対

ないわけで安全だ。・・・・・・だが」




アッテンボローはその先を促した。「だが、なんだよ。気になる

だろ。言え。」


ポプランはにへへと笑って頭をかいた。



「安全はおれの性にあわんのですよ。閣下。あーあ。宇宙海賊

に遭遇したいなー」













・・・・・・度しがたい。



新婚そうそうドンパチされては堪らない。

そう思って彼の妻をふり帰ると彼女は何やら思案顔である。

いったいどうしたのかと聞けば新婚のミキ・M・アッテン

ボローはいった。




「・・・・・・困ったなあと思って。帝国元帥に礼儀を失してはと

思ってこれと言って武器は用意してこなかったの。ブラスター

の一つでも用意しておけばよかったかしらね。」




・・・・・・度しがたい。彼の新妻は陸戦のプロに賞賛を受ける

サイレンの魔女の再来であった。













こうなってみるとこの船の中でノーマルな人間は自分と

レディ・コーネフかと都合よく考えたアッテンボロー。

・・・・・・しかしながら彼等を待ち受けるのはそれ以上の

災厄であったかも知れない。







一難去ってまた一難。



「オリビエ。冗談言ってる場合じゃないかも。どうして今頃この

宙域にこんなことが起こっちゃうのかな。こんな運がないって

こときっと滅多にないわよ・・・・・・」




イレーネ・コーネフは兄に似た口調で静かに言った。






太陽風である。

しかも2万年に一度の強力な太陽風に『海鳥号』はいま巻き

込まれつつあった。

「宇宙海賊の方がましだったと思うな。」

アッテンボローが口笛を吹いた。









それを聞いて度し難いと一同が思ったのはいうまでもない。



by りょう
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