1・10000 荷物を整理していく中で彼女はいろいろと面白いものを見つけた。 アルバムである。 今日は彼女が早く帰ってきて先に夕食を済ませた。 アッテンボローは近くに行われる帝国と交渉の仕事で忙しいらしく 仕事場で食事は済ませるとのこと。 彼女は見つけたアルバムをぱらぱらとページを繰りながら何故か 普段口にしない紅茶を飲んでいた。 実際彼女は紅茶が好きではないし、コーヒーの方が好きでそして やはりいれるのもうまくなれない。 アッテンボローはコーヒー党なのでよかった。彼女の夫だったジョン・ マクレインは生前、彼女のいれる紅茶だけは褒めたことがなかった。 作る料理はおいしいとほめてくれ残したこともなかったが紅茶を入れる 手前だけは及第点をもらわないまま今に至る。 ミキ自身でも自分が入れた紅茶を相変わらず美味しいとも思えないし 全く彼女の技量もこの数年かけても伴っていなかった。 おおかたジョンとの写真は実家の彼の部屋に送ったと思い込んで いたので彼との写真がこの家に残っていたのが不思議であった。 若い2人の結婚式。 一枚きりの、写真。 何故これだけがここにあるのかは謎だ。 けれどこうしてみると実に幼い2人同士が結婚をしたのだなと思う。 ウェディングドレスだって子供っぽいものだしままごとのようだ。 けれども、2人の生活はままごとではなかった。 Jとは生まれたときには・・・・・・物心がついたときには兄妹だった。 でも2人は血は繋がっていないので友達でもあり、はじめての異性 でもあり・・・・・・成熟しては、永遠の伴侶と思えた。 ミキはそう思っていた。 27年間をともに暮らしてきた家族。 喧嘩もしたが思いでのなかででは美しい思いでだけが蘇る。 時が経つということはそれだけ過去を客観してみれるということ でもある・・・・・・。 などといささか哲学者めいた考えをしている自分にふと気づき ミキは笑った。 10000日。 彼と生きた日々。 彼が生きていた日々。 アッテンボローを愛するのとJを忘れないことは別であるし アッテンボローはそういうことは思いやりがある男で妙な嫉妬は ない。 そういう朗らかで安定した性質に惹かれる。 女の嫉妬が怖いというのは全くの誇張で男のそれのほうがよほど 怖い。 女の嫉妬は一家を滅ぼすが男の嫉妬は一国を滅ぼす。 だからアッテンボローにそのような素地がないということは稀にみる よい男ぶりであると彼女などは思う。 ジョンにも、そういうところがなかった。 家族を忘れることはできない。 それを許してくれるアッテンボローを彼女は尊重し、愛情を 持っている。 さて、軽い夜食になりそうなものを見ておこうか。 一緒に暮らしだして恋人が実に「おおめしぐらい」であることが発覚した のだ。もっとも彼女はよく食べる人間は好きだしちょっとばかっり アッテンボローを太らせてみてもいいなと思っていた。 でも彼は運動量が多いのか体質か代謝がよく太りにくい。 彼女は実は黙っていたが彼の父親を知っているし面識もある。以前 彼の取材を受けている。間違っていなければあのパトリック・アッテン ボロー氏はアッテンボローのジャーナリストの父上のはず。 彼は少し壮年になって肩などに厚みがあった。だからアッテンボローだっ て全く太れないわけではなさそうだ。 太り過ぎは困るが人間、痩せ過ぎというのも身体に良くない。 長いつきあいになりそうだからアッテンボローには長生きをして ほしいと思う。 10000日以上、彼と生きていきたいとミキは思う。 by りょう ■小説目次■ |